近年、暑い日が続いており熱中症やその予防について注目が高まっています。熱中症は重症になると後遺症が残ったり、場合によっては死亡することもあるため注意が必要です。

病院だけでなく介護施設、保育園、イベントの救護所などさまざまな場所で熱中症が起こる可能性があるため、看護師は正しい知識を理解しておかなければなりません。

今回は、熱中症の基礎知識や分類、対応などについてご紹介します。

熱中症とはどんな疾患?

熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称*1 です。

これまでは、暑熱による障害は「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」と症状で分類されていました。しかし、症状で判断すると病状の程度を過小評価してしまう恐れがあります。

そのため、熱中症診療ガイドライン2015ではそれらを総称して「暑さによって何らかの症状を引き起こし、他の原因疾患を除外したものを熱中症」と定義しています。

熱中症のメカニズムとは?

熱中症を引き起こすメカニズムとして、体温調節機能の乱れが関わっています。

通常、暑さを感じると自律神経の働きによって末梢血管が拡張し、皮膚に多くの血液が流れ込むことで熱をからだの外に放出します。同時に、汗をかくことで蒸発する時にからだの表面から熱が奪われる「気化熱」が生じ、体温を下げるのに役立ちます。

ところが、あまりに暑く湿度が高い環境にいると、体温調節機能が乱れてからだの外への熱の放散ができなくなり、体内に熱がこもって体温が上昇してしまうのです。

また、急激に汗をかくと、体内の水分と塩分が失われ、体液のバランスが崩れてしまいます。そして、血流が悪くなり、さまざまな症状や障害を引き起こします。

熱中症を引き起こす条件

熱中症を引き起こす条件には「環境」「からだ」「行動」の3つがあります。*2

「環境」の要因は、以下のようなものがあります。

  • 気温が高い
  • 湿度が高い
  • 風が弱い
  • 輻射源(熱を発生するもの)が強い

このような環境下では、からだの熱放散が減少し、汗の蒸発も不十分となるため、熱中症が発生しやすくなります。

「からだ」の要因は、以下のようなものがあります。*1

  • 高齢者
  • 乳幼児
  • 認知症や要介護者
  • 慢性疾患(心疾患、悪性腫瘍、精神疾患、高血圧、糖尿病など)
  • 降圧薬・利尿薬・向精神薬などの服用

特に高齢者は熱に対する感受性や体温調節機能が低下していることから、日常生活の中で起こる非労作性熱中症が多く、屋内での発症や重症例が多くなっています*1 。これらの危険因子がある人にはより一層の予防策が必要です。

「行動」の要因は、以下のようなものがあります。

  • 激しい運動
  • 慣れない運動
  • 長時間の屋外作業
  • 水分が補給しにくい行動

特に、若年男性はスポーツ、中壮年男性は労働による労作性熱中症の発生頻度が高くなっています*1 。高温多湿での長時間の行動は避け、こまめな水分補給などの対策が重要です。

熱中症の分類とそれぞれの対応

熱中症の分類については、日本救急医学会が示す熱中症分類が用いられています。具体的な内容と対応についてご紹介します。

現場で対処可能な「Ⅰ度」

Ⅰ度の熱中症は、症状が徐々に改善している場合は現場での応急処置と見守りが可能な状態です。

Ⅰ度の熱中症では、からだの熱を放散しようと血管が拡張し、血圧や脳血流量が低下するため、めまいや立ちくらみ、生あくび、場合によっては一時的な失神を引き起こします。

また、汗をかくことで電解質バランスが崩れることから、筋肉痛やこむら返りなどが出現します。

対応としては、「冷却」と「水分と電解質の補給」が重要です。

涼しい場所へ移し、皮膚を濡らしてうちわなどで扇いだり、前頚両側部・腋窩部・鼠径部などを冷やすと効果的です。電解質の補正には、市販の経口補水液が望ましいとされています。*1 

速やかに医療機関への受診が必要な「Ⅱ度」

Ⅱ度の熱中症は、医療機関での診察が必要な中等症の状態です。

Ⅱ度の熱中症では、皮膚の血管に血液が貯留し、心臓へ血液が戻りにくくなり循環血液量が減少します。重要臓器への血流も減ることから、頭痛や嘔気・嘔吐などが出現。また、集中力や判断力の低下など、軽度の意識レベル低下を起こす場合もあります。

初期対応としては、Ⅰ度同様の「冷却」と「水分と電解質の補給」をしながら、速やかに医療機関へ搬送します。

搬送後は、「体温やバイタルサインの観察」「冷却」「水分や電解質補正のための輸液」などの対応が必要です。

入院加療が必要な「Ⅲ度」

Ⅲ度の熱中症は、検査の上で入院加療が必要な重症の状態です。

Ⅱ度の熱中症では、高度の脱水と重要臓器への循環血液量がさらに減少し、脳や他臓器にダメージが生じます。そして「中枢神経障害」「肝・腎機能障害」「血液凝固異常(DIC)」のいずれかを含む病態を引き起こします。

入院加療により「冷却」「呼吸・循環管理」などが必要です。冷却は体表からだけでなく、胃管や膀胱カテーテルを用いる方法や体外循環を用いる方法なども行いながら速やかに体温を下げることが重要です。

臓器障害に対しては、体温コントロールと輸液に加えて対症的な治療が行われます。例えば、中枢神経障害には低体温療法、肝障害には輸血や血漿交換、血液凝固異常には抗DIC療法などが行われることがあります。*1 

いずれの状態も時間の経過とともに変化するため、迅速かつ適切なアセスメントと対応をして重症化を防ぐことが重要です。

まとめ

熱中症は、重症度が高くなればなるほど他の臓器もダメージを受け、予後が悪くなります。看護師は医師などと協力しながら、迅速かつ適切にアセスメントして対応することが大切です。

熱中症の病態や分類、必要な対応について理解を深め、ぜひ看護ケアに活かしていきましょう。

*1 出典:日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2015」

*2 出典:環境庁「熱中症環境保健マニュアル2022」