CURAでは、看護教育の研究をされている方へのインタビューを行っています。第一回は、看護師・保健師として働きながらパソコンに興味を持ち、「看護学と情報学」の架け橋に貢献されている真嶋由貴恵先生(大阪公立大学 大学院情報学研究家 学際情報学専攻教授)にお話を伺いました。なぜ看護学と情報学の両方にご興味を持たれたのか、またこれから看護師になる方に向けてのメッセージを頂きました。

なぜ看護師の道に進んだのか

母が看護師として働いていました。私は長女として育ってきて、母の看護師としての働きを話に聞いていました。母は注射がとても上手で、患者からも注射のリクエストをされるほどだったそうです。そこで看護という仕事のことを知りました。

大学を受験する際、教員になりたいと思って受けた第一志望は残念ながら不合格でしたが、浪人をするのもどうかなと思い、もう一つ受けていた看護の専門学校に進むことにしました。当時看護大学は全国に4校くらいしかありませんでした。

看護師になりたいという強い意志があったわけではないですが、母の仕事を見ていたこともあって、看護師になるのも良いと思っての選択でした。

その後、広島県豊田郡川尻町(当時)という筆で有名な人口1.5万人くらいの町で、新人の保健師として採用されました。その後、母校の国立呉病院で看護師として働きました。

情報学との出会い

当時はお便りなどはガリ版(ロウ原紙の上に鉄筆で文字を書き、印刷する道具)で作っていたのですが、保健師の時にワープロが入り、看護師時代にはパーソナルコンピューターが使われ始めていました。当時、看護業務はあまりに忙しかったので、このコンピューターが看護の役に立つのではないかと思い、情報系の大学に進むことを決意しました。そして看護職を辞めて、7月からの受験勉強を経て香川大学教育学部の総合科学課程情報科学コースに入学しました。

情報学と看護学を結びつける

私は看護学に情報学を活かすために大学にきたのに、看護の新しい情報がわからなくなっていると思い、香川医科大学の図書館に通いました。また、香川県看護協会の開催する潜在看護師向けのセミナーも受講しました。

結婚して子育てしながら大学4年間と修士課程に行きました。最初に使ったマッキントッシュのコンピュータにはハイパーカードというソフトが無償でついており,簡単に動画を取り込めたり、インタラクション(ユーザーがアクションを行うと、システムが反応を返すこと)ができたので、シミュレーション教材を作ったり、クイズ形式の教材を作ることができました。

修士課程にいる間に、インターネットが普及してきました。私のような潜在看護師の方が世界には何人かいるのではないかと思い、学習用のホームページを立ち上げました。さらに、ネットの向こうにいる看護師たちが情報を共有できるようにインターネット掲示板を立ち上げました。それは海外の方の目にも止まり、世界中とつながることができるようになりました。そして、新人看護師向けの教育システムも作りました。このようにして、新しい技術が出てきたら、その都度それを使って教育システムを作っていくということをしました。

CAI(コンピューター教育)から始まった学習支援システムではスモールステップ理論(プログラム学習の一つで、学習内容を細分化すること)など、様々な理論をもとに教材を作りました。しかし、看護の学習支援システムに取り入れたところで、どうしても知識ベースとなり、母のように上手に注射ができる、という技術の学習はできません。ただし、これはCAIに限らず看護実習でも同じことで、「私の背中をみて学びなさい」と言われても、学習者によっては「はい、背中を見ていました」で終わってしまうことがあります。(笑)

そこで、暗黙知(身体の動かし方・技術など、言葉で表していない知識)を形式知(言葉で表された知識)に変えていくことで技術を学習支援システムに取り込んでいくことができると思い、事例教材というシステムを作りました。

CanGoの制作

このような開発を続けていましたが、就職活動には苦労しました。看護大学が新設され始めたのですが、看護と情報の両方に明るい人は少なく、私を採用してくれる所をなかなか見つけられなかったのです。そんな折、今はもうお亡くなりになられましたが、初代学長が中西睦子先生であった神戸市看護大学に無事採用されました。この年は阪神淡路大震災の翌年で、神戸市看護大学の開学も危ぶまれていたのですが、神戸の復興応援ということもあって無事開学できたことは非常に嬉しかったです。

また、ポートアイランドに通信・放送機構(TAO)ができました。そこには、色々な企業が出向しており、神戸の復興事業を支援するというミッションがありました。私はそこに看護教育システムの話を持って行ったら、神戸製鋼の方に興味を持ってもらえて、そこからタッグを組んで長いこと教材作りをしました。

その後北九州の産業医科大学と大阪府立看護大学(当時)で看護教育システムを作っている中で、現代GP(現代的教育ニーズ取り組み支援プログラム)に出しましょうということになり、他の先生の協力も仰ぎ患者さんの事例を130ほど作りデータベース化しました。その教材は「看護(かんご)」と絡めて「CanGo(Communication Art Nursing Good practice Osaka prefecture universuty )」と名づけ、Can-goという形にまとまりました。

CanGoは、厚生労働大臣賞を貰いましたが、このシステムを動かしていたFLASHが終了してしまったため現在では動きません。そこでMoodleという別のフォームに切り替えました。教材は10年経っても古くならず、長く使えることをコンセプトにして制作しているため、現在の看護の現場でも十分に役立つものだと思っています。

現在は、学習者それぞれの得意なこと、学びたいことをまず学ぶことで、モチベーションを高め、一人でも学習できる看護技術学習支援システムの開発を行っています。

看護教育において大切なこと

学習者はそれぞれ学びたいことがあり、大学の教員はそれぞれ教えたいことがあります。それが一致することもありますが、学習者によっては仕方なく学んでいたり、もっとわかりやすく学びたいと思うこともあります。学習者は学習方法も未熟なことが多く、何を学びたいのかが分かっていない人もいます。

教育者は、学習者が何を学びたいのか、どのような目標を立てると良いのかをサポートする必要があります。また学習者もそれを自覚して、闇雲に学ぶのではなく、目標までの道筋を理解する必要があります。ただ目の前の研修をしたらゴール、となってはいけません。

新人看護師に向けてのメッセージ

まずは素直に吸収しましょう。大学など教育機関で学ぶことは、看護の知識のほんの一部でしかなく、スタート地点に立つまでの前提知識です。そしてその後は、自分の得意なところを伸ばしていくのが良いでしょう。

不得意な分野は、得意な分野を学ぶより、2倍、3倍も時間がかかります。ですから、無理に不得意な分野を伸ばそうと思う必要はないと思っています。実際の現場でも、自分の得意な看護を行うことが大切です。誰をどこに配置するかは施設のマネージャーの仕事ですが、自分は何が得意なのかを知って、マネージャーにアピールすることも大切かもしれません。

潜在看護師に向けてのメッセージ

あなたは国家試験に通っているので、十分な知識があるはずです。またその時から人間の身体の仕組みはほとんど変わっていないわけですから、あなたの知識が使えなくなっているということはありません。

ですから、もし不安があるとしたら、何が不安なのかをしっかり考えるべきです。休職をしたということは、その休職の原因が復職の妨げになっているのかもしれません。たとえば妊娠・出産・育児であれば、お子様がいらっしゃることが、復職の不安になっていることでしょう。まずはそれをケアする方法を考えることです。

そして、苦手なことをできるようにと考えるよりは、得意なところを伸ばす研修を受けるとよいでしょう。配置されてから研修を受けるのではなく、配置されるまえに研修を受けて、自分の得意なところをアピールし、それにあった配置をされると、不安も少なくなると思います。

そして、普段の生活のなかで、ニュースを見たり記事を読んだりということを欠かさないようにして、日々情報をアップデートしていきましょう。あまり詳しく追わなくてもよいです。小耳にはさむことだけでもアップデートができると思います。例えば今なら少子化の問題とか、少し前ならコロナの看護師に対する影響とか、そういった情報が、今までの看護の知識と結びつくことで考え方が変わることがあり、そういったことが新しい病院に勤めるとなったときに役に立つかと思います。