「サルコペニアやフレイルって聞いたことはあるけど、どういう状態なの?」と疑問に思っていませんか?超高齢化社会を迎えている日本では、サルコペニア・フレイルの予防について注目が高まっています。看護師として復職する際にも必要な知識のため、しっかりと理解しておきたい内容です。今回は、サルコペニア・フレイルの概念や評価法、予防について分かりやすく解説していきます。

サルコペニアとフレイルってどういう病態?

医療機関や介護施設などで主に高齢者の看護ケアを行う際には、サルコペニアとフレイルについてしっかりと理解しておきましょう。

サルコペニアとは?

サルコペニアとは、「骨格筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態*1 を指します。

サルコペニアはギリシャ語の筋肉を表す「sarco」と喪失を表す「penia」をくっつけた造語です。

サルコペニアは加齢に伴うさまざまな変化が主な要因となって引き起こされます。筋肉量と筋力が減ることは、高齢者の身体機能障害や転倒のリスク因子などになり得るため注意が必要です。

*1 参考:サルコペニア診療ガイドライン2017年版

フレイルとは?

フレイルとは、「加齢に伴う予備能力が低下することで、ストレスに対する回復力が低下した状態*2 を指します。一般的に「虚弱」とも表現されていて、要介護状態の前段階として位置づけられています。

フレイルは、"frailty" の日本語訳として2014年に日本老年医学会が提唱した比較的新しい用語です。

フレイルの概念はサルコペニアよりも広く、身体的なフレイルだけではなく、認知機能の低下といった精神・心理的フレイル、独居や経済的困窮などの社会的フレイルも含んでいます。

近年では、高齢者の健康寿命を上げるためには身体的なアプローチだけでは不十分だという考えから、厚生労働省などを中心にフレイル予防への取り組みが強化されています。

*2 参考:フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント

サルコペニアとフレイルの関係性

サルコペニアとフレイルは互いに関連しており、少しのきっかけで悪循環を引き起こし、要介護状態へとつながる可能性があります。

このような状態を「フレイルサイクル」といいます。

サルコペニアは筋肉量と筋力に限った問題ですが、それがきっかけとなり身体機能が低下し、活動量や基礎代謝の低下につながります。そして、エネルギー消費量が減り、食欲や食事量も下がってしまうと、結果的に栄養不足となりサルコペニアがさらに悪化するという悪循環に陥ってしまうのです。

サルコペニアとロコモティブシンドロームとの違い

サルコペニアと近い概念としてロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)という言葉がありますが、どのように違うのでしょうか?

ロコモは「骨・関節・筋肉・神経などの運動器の障害のために、移動機能が低下した状態」*3 を指します。サルコペニアは筋肉に限定した概念のため、ロコモの方がもう少し広い概念です。

ロコモは2007年に日本整形外科学会によって提唱された言葉ですが、日本独自につくられた用語です。また近年、フレイル予防への考えが普及していることもあり、サルコペニア・フレイルの方がよく使われています

*3 参考:日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム診療ガイド2021

サルコペニアとフレイルの評価方法

医療機関などでは患者さんがサルコペニア・フレイルかどうかを診断するために、さまざまな評価方法が用いられています。患者さんの状態をアセスメントし、適切に看護ケアを行うためにも知っておきましょう。

サルコペニアの診断基準

日本ではサルコペニアの診断基準として、AWGS2019(Asian Working Group for Sarcopenia 2019)が用いられています。

一般的な診療所や地域での評価項目は、以下のようになっています。

大きな医療機関では、これに加えて歩行速度や骨格筋量などを含めて診断していきます。

フレイルの診断基準

フレイルの評価方法としては、J-CHS基準(Cardiovascular Health Studyの日本語版)が用いられています。

5つの評価項目のうち、3項目以上に該当するものをフレイル、1〜2項目に該当するものをプレフレイルと診断していきます。

看護に活かす!サルコペニアやフレイル予防の3つの柱

サルコペニアとフレイルのどちらにおいても、予防するためには「運動」「食事」「社会活動」の3つが重要だと言われています。

高齢者が入院することによって筋力や身体機能が低下してしまい、要介護状態に進行してしまうことはできるだけ避けなければなりません。しかし、適切なアプローチをすることで心身の機能を取り戻すことが可能です。

介護施設や自宅での生活でサルコペニア・フレイルを予防するためにも、高齢者それぞれの状態を把握した上で効果的な方法を看護ケアに取り入れていきましょう。

筋力や身体機能を維持する「運動」

筋力や身体機能を維持するためには、適度な運動をすることが適しています。

サルコペニアやフレイル予防の運動としては、ウォーキングなどの有酸素運動と筋力を向上させるレジスタンス運動がよいとされています。

レジスタンス運動は、筋肉に負荷をかける動作を繰り返し行う運動のことです。椅子を使ったスクワットや踵上げ、座ったり寝たままの姿勢で行う足上げといった簡単な動作でも効果があります。

筋肉や骨の材料となる「食事」

サルコペニアやフレイルを予防するためには、バランスのよい食事を摂ることが大切です。

特に、骨格筋をつくるのに必要とされる栄養素はたんぱく質です。中でも、たんぱく質の合成を促し、分解を抑制して筋肉の形成を促す必須アミノ酸を摂るとよいとされています。具体的には、鶏肉や赤身の魚、卵、大豆、牛乳などに多く含まれています。

また、骨の材料となるカルシウムや、カルシウムの吸収を促すビタミンDを摂取することも大切です。

人とのつながりを保つ「社会活動」

社会活動を通じて人とのつながりをもつことも大切です。なぜなら、社会参加の機会が失われることで、外出の頻度が減り活動量が低下したり、認知機能の低下につながったりするためです。

健康な高齢者であれば、就労やボランティア活動、趣味、友人などとの交流を通じて、他の人と関わる機会が増やせます。

入院中や要介護状態の高齢者では活動量が少なくなってしまいやすいですが、その方の趣味や自宅での生活を尊重しながら看護師が積極的にコミュニケーションをとることも大切です。また、社会活動を維持できるように看護師などが調整・サポートすることも重要でしょう。

まとめ

サルコペニア・フレイルは高齢者に起こりやすく、悪化すると心身の健康が損なわれてしまう可能性があります。病院や介護施設などで高齢者に関わる看護師は、その人の心身の状態を把握することで要介護状態にならないように早期から介入できる立場にあります。そのためには、サルコペニア・フレイルについて理解を深め、ぜひ看護ケアに活かしていきましょう。