今回のインタビューでは、神戸常盤大学保健科学部看護学科 学科長 尾﨑雅子 教授にお話を伺いました。尾﨑先生は、患者と関わる中で看護師自身も良い生き方をする「看護師の在り方」を研究し、多くの看護師を育ててきました。

なぜ看護の道を志したのですか?

子供の頃、注射がとても苦手でした。小さな医院で予防接種を受けるとき、私は泣きながら注射を打たれていたのですが、先生がデスクで書き物をした後に、引き出しの中から飴玉を出してくれました。子供ながらに、なんて優しい先生だろうと思い、注射の痛みも薄れました。このような小さな心遣い、言葉がけで、人を元気にしていく先生の姿を見て、将来の夢は「お医者さんになること」になりました。

しかし、中学、高校と進学していくにつれて、だんだん現実が分かってきました。医者になるためには医学部に行かなければいけない、しかしそこまで強く勉強を志すことができない。自分には医者になることは無理なのだろうと思いました。それでも、病院で働きたい、困っている人の役に立ちたいという思いで、看護師を目指すことにしました。

当時看護師を目指す人は少なかったので、高校の先生も戸惑って「学校の先生になるのはどうだろうか?」とおっしゃいました。しかし、私は学校の先生ではなく看護師になりたいという思いがあったので、先生と一緒に看護師になる方法を調べて、看護の専門学校に進みました。

私が学んでいた専門学校では、40人程度の学生しかおらず、今と違って病院実習にもたくさん行きました。大学医学部附属の専門学校だったため、大学病院での実習が主で、たくさんの部署をめぐることになりました。先生に指導を受けるというよりは、現場の看護師に指導を受けるという感じで、患者さんのベッドサイドで過ごしている時間も多かったです。

怖い看護師の方に指導を受けるときは、友人と助け合って上手くやってました。

そのような専門学校生活の後はそのまま大学病院に看護師として勤めました。同期の学生もそういう人が多かったようです。最初は循環器を中心とした内科にいて、その後は循環器系の外科に異動しました。この大学病院で10年弱の臨床経験を積みました。

そのあとは家庭に入り、仕事から離れることになりましたが、そののち縁があって専門学校の非常勤として実習の指導をすることになりました。

さらに縁があって、神戸常盤短期大学(現神戸常盤大学)に看護学科が開設されるにあたって、助手として教育と研究活動をすることになりました。

先生のご研究内容を教えてください

私が取り組もうと思ったのは、「看護師の在り方」です。臨床においても、実習においても、様々な状況で患者と関わる中で自信を無くしてしまうことがあります。私もずっとこれを抱えていました。その後、大学院では教育哲学の分野の先生方のもと、看護ではなく人間学を学び、自分を振り返るきっかけを持つことができました。またここでは医療、福祉、教育、宗教、企業などあらゆる場で人と関わる仕事をしている方やそれを目指す方と共に学んだので、私にとっては良い刺激になりましたし、大きな財産です。特に手がかりとなったのが、鈴木大拙先生の東洋思想、仏教における禅の考えでした。鈴木大拙先生は東洋思想の方ですが、一方で西洋的な考え方を否定しているわけではなく、とても中立的な方です。看護や医学は、対象を客観的に分析して捉えるという西洋的な考え方に立脚していますが、全体のつながりの中で感じていくという東洋的な思想に照らして自分の行ってきたことを振り返ることができました。

看護師は、自分を捨てて患者のために尽くす、という傾向がありますが、相手を大切にするのと同時に、自分もよりよく生きていくということが重要なのではないか、と思い、これを大学院の論文にしました。

看護師は相手がどのような状況であっても、前向きに心地よくなれるように援助とケアをしていきます。そして、その心地よさを提供する側が、それを分かっている、自分自身が体験している、ということが大事です。看護師は自分自身がより良く生きていくという感覚を研ぎ澄ませる必要があります。食事をとるときに、おいしいものをおいしいと感じること、身体を洗う時に、身体が綺麗なって気持ちよくなったと思えること、そのような感覚を持って日々を丁寧に過ごすということです。

私自身がそれを実践できているか、というと難しいところではありますが(笑)

一人ひとりが、忙しい中でずっとこのような意識を持ち続けるのは難しいことですが、そのようなことを意識できる瞬間を持つことが大切です。

実習中のエピソードを教えてください

私は基礎看護学の授業を受け持っており、1年生や2年生といった、初期の実習に関わることが多いです。初期ということもあって、学生は患者さんのことを考える前に自分のことで精一杯です。

ある社会人の男子学生の実習指導を担当した時に、次のように言われたことがありました。

「昨日は遅くまでアルバイトで、その後実習の報告レポートをするだけでも精一杯でした。疲れ果ててしまったので今日は何もできません。そもそも患者さんは女性看護師を期待しているから、男性看護師ってだけで態度が違うように思います」

学生にとっては、勉強も追い付いていない中で、患者さんのところでどうして良いのかわからず、またもじもじしている態度が患者さんには負担になり、このような言い訳になってしまったのでしょう。

しかし私は、そんなことを言うこと自体が信じられなくて、厳しめに

「今日はもう帰っていいです!」

と言ってしまいました。

休憩時間の後、帰ると言いにくると思ったのですが、学生は実習を続けていました。頑張って病室に行き、掛物がはだけて肩のあたりが寒そうだという気づきがあったので、それを患者さんに伝えました。そうすると患者さんから

「ありがとう、またお願いするわ」

と言われました。それから彼は、自分のことは言わず、患者さんに気を配れるようになりました。

どうしても実習の初期は、患者さんの役に立ちたいと一生懸命になろうとしても、勉強がしんどかったり、睡眠時間が削られて体力が持たなかったりすることがあり、つい愚痴を言ってしまうことがあります。そんな中、患者さんからの言葉で気持ちを新たにしていく、ということが何度もありました。

実習の最終日に、学生と患者さんにご挨拶に行きます。その時に患者さんに学生と握手してもらっています。手を握り「ありがとうございました」というと、「頑張ってくださいね!」と、とても力強く握り返してくださる患者さんもいらっしゃって、学生は感極まって泣いてしまうこともあります。そして私も目頭が熱くなります。教師冥利に尽きる瞬間です。

実習において、患者さんから頂ける力というのは非常に大きいと思っています。

休職中の看護師の方へのアドバイスを頂けますか

私自身、卒業後に働いていたところを辞めて家庭に入り、その後復職したという経験があります。そうした中で、看護以外の方たちとも関わって、広くいろんな世界を見ることができたということが今の私にとって大事なことだったと思っています。

看護は専門的な分野ですが、視野を広くして見識を深めていくことで、看護師としての深みも出てきます。ですから、看護から離れている時間も、看護にとって大切な時間となります。

今までの自分の生き方に自信を持って、看護の仕事に戻ってきていただければと思います。休職された理由も人によって様々だと思いますが、現在は夜勤のないクリニックでの仕事や、短期の仕事もありますので、少しずつ自分にあった仕事を見つけていってください。