「看護師として復職...筋肉注射の手技を確認したい」「筋肉注射の刺入部位が変わったって聞いたけど本当?」と思っていませんか?

これまで看護師が筋肉注射をする機会は多くありませんでした。最近では、新型コロナウイルスワクチンなどの筋肉注射をする機会が増え、筋肉注射をより安全に実施するための新たな手技が提言されています。

今回は、看護師が覚えておきたい筋肉注射の最新の手技について解説します。看護の場でしっかりと対応できるように、手技のポイントを覚えておきましょう。

筋肉注射の手技が変わった?変更に至る経緯は?

日本ではワクチン接種を皮下注射で行うことが多く、筋肉注射はあまり実施されていませんでした。一方、海外では筋肉注射でのワクチン接種が主流であり、不適切な部位への筋肉注射による以下の合併症が問題視されています。

  • 橈骨神経障害
  • 腋窩神経障害
  • SIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration:ワクチン接種に関連した肩関節障害)

2021年2月より新型コロナウイルスワクチン接種が開始され、日本でも筋肉注射による上記の合併症が増えることが危惧されました*1

そこで、奈良県立医科大学 臨床研修センターが合併症のリスクが少ない新しい手技を提言*2 。日本プライマリ・ケア連合学会もこの手技を推奨しています*3

ただし、現時点で新しい手技のエビデンスが確立されておらず、肩峰から3横指下へ筋肉注射する従来の方法も許容されています*4

正しく知っておこう!【最新版】筋肉注射の部位と手技

新しく提言されている筋肉注射の部位や手技についてご紹介します。

筋肉注射の部位(成人の場合)

腕を自然に下ろした状態で

  1. 肩峰中央から垂直におろした線
  2. 前腋窩線の頂点と後腋窩線の頂点を結ぶ線

この2つの線が交わる点(三角筋中央部)が刺入部位として推奨されています*2

刺入部位が肩峰に近くなるほど、腋窩神経障害SIRVA(肩関節障害)のリスクが高まるため注意が必要です*1 。腋窩神経障害やSIRVA(肩関節障害)については、注意点の項目でくわしく説明します。

筋肉注射の部位(小児の場合)

小児のワクチン接種においても、新型コロナウイルスワクチンによる筋肉注射の必要性が高まり、日本小児科学会は標準的な注射部位・方法を示しています*5

3歳以上

基本的に三角筋中央部。ただし、明らかに三角筋の筋肉量が少ない場合は、大腿前外側部に接種することも可能。

1〜2歳

大腿前外側部または三角筋中央部

1歳未満

大腿前外側部

筋肉注射(上腕部)の実施手順

上腕部への筋肉注射の実施手順は次の通りです。

  1. 患者さんに背もたれのある椅子に座り、肩峰から上腕までしっかり露出してもらう。このとき、接種者も椅子に座って実施する。椅子に座れない状況であれば、刺入部位と同じ高さまで目線を下げる。
  1. 患者さんに肘は曲げずに自然に下ろした姿勢をとってもらう。
  1. 三角筋の輪郭と、皮下組織や筋層の厚さを触診し確認する。
  1. 注射部位をアルコール消毒する。
  1. 刺入点へ注射針を垂直約20mm穿刺する。

   ※ 皮膚はつまみ上げない。

   ※ 適切な部位へ穿刺されていれば、大きな血管はないため、血液の逆流確認は必ずしも必要ない。

  1. しびれや強い痛みの有無を確認する。
  1. 薬液をゆっくり注入する。骨に当たった場合は、2〜3mm引き戻してから注入する。

   ※ 強い痛みを訴えた場合は、薬液は注入せずに針は一旦抜く。

  1. 針を抜き、アルコール綿で軽く圧迫する。

   ※ 注射部位をもむ必要はない。

安全に筋肉注射を実施するための注意点とは?

筋肉注射を安全に実施するために、気をつけておきたい注意点を知っておきましょう。

接種者が椅子に座って実施するのはなぜ?

接種者が椅子に座ることで、目線が注射部位と同じ高さになり、適切な部位に刺入しやすくなります

接種者が立位で筋肉注射を実施すると、目線が高くなり、刺入部位が高くなる可能性も。肩峰近位での注射は、腋窩神経障害やSIRVA(肩関節障害)のリスクが高まるため注意が必要です。

腋窩神経障害とは?>

腋窩神経は肩峰から約5cm末梢の三角筋の深層、上腕骨の表面を後方から前方にかけて走行しています。肩峰から3横指下は腋窩神経が走行する高さのため、腋窩神経の損傷により三角筋麻痺などを生じるリスクがあります。*1 

SIRVA(ワクチン接種に関連した肩関節障害)とは?>

SIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)は、ワクチン接種後に生じる肩の急性炎症(肩関節周囲炎、滑液包炎、腱板炎など)のこと。肩峰から約4cmまでの高さは、三角筋の深層に三角筋下滑液包があります。この三角筋下滑液包へワクチンを誤注入することで、SIRVAを引き起こすと推測されています。*1 

患者さんの手を腰に当てずに腕を下ろすのはなぜ?

腕を下ろした状態では、三角筋をとらえやすく、橈骨神経を損傷するリスクが低くなります

橈骨神経は腋窩から上腕骨の後方を通って外側に回り込み、肘関節より頭側で前方に回り込むように走行しているもの。

腰に手を当てて肘を張る姿勢は肩関節が内旋するため、橈骨神経が前方へ移動して接種者の正面に現れます。すると、橈骨神経を損傷するリスクが高まるため注意が必要です。*1 

橈骨神経障害とは?>

橈骨神経障害は、橈骨神経が麻痺することにより、手首を反らしたり手指をうまく伸ばせなくなったりする下垂手や、手関節や手指の感覚障害などが生じる状態。手をうまく使えないと日常生活に支障をきたし、重症の場合は手術が必要になることもあります。

筋肉注射するときに皮膚をつまみ上げなくていいの?

皮膚をつまむと、皮下組織の厚みが増し、注射針が筋肉に到達しなくなってしまいます。皮下注射では注射針が筋肉に到達するのを避けるために皮膚をつまみますが、筋肉注射では皮膚をつまみ上げないようにしましょう。

刺入点がわかりにくい場合は、注射針を持たない方の手を三角筋の両縁に添えると位置を決めやすくなります。

筋肉注射での注射針の長さは?何ゲージの針を使ったらいい?

成人の患者さんの場合、注射針の太さは22〜25Gを使用します。注射針の長さは体格によって推奨されるものが異なります。

小児の患者さんの場合は、注射針の太さは1歳未満では25G1〜18歳では23〜25Gを使用します。推奨される注射針の長さは年齢や接種部位によって異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。

筋肉注射の手技を確認して看護スキルを向上しよう

より安全な筋肉注射を実施するために、従来の肩峰から3横指下ではなく新しい注射部位や手技が提言されています。看護師は筋肉注射を実施するにあたり、筋肉注射の手技や作用・合併症などをしっかりと理解することが大切です。

筋肉注射に関する知識や技術をアップデートして、自信をもって看護を行いましょう!

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参考文献

*1:仲西ら(2021). ワクチンの筋肉注射手技の国内における問題点:末梢神経損傷およびSIRVAについて. 中部日本整形外科災害外科学会雑誌, 64(1), 1-9.

*2:奈良県立医科大学附属病院 臨床研修センター「筋肉注射手技マニュアル」

*3:日本プライマリ・ケア連合学会「新型コロナワクチン より安全な新しい筋注の方法 2021年3月版」

*4:厚生労働省「新型コロナウイルスワクチンを安全に接種するための注意とポイント」

*5:日本小児科学会「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂第2版)」

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