褥瘡の状態を評価するスケールとして病棟などでよく使われているDESIGN-R®。2020年に改定され、新たに内容が加わっています。看護師として復職を検討しているなら、DESIGN-R®2020について知っておくことで復職後の看護ケアに活かせるでしょう。今回は、改定で追加された内容や必要とされるケアなどについてご紹介します。
DESIGN-R®2020とは何?
DESIGN-R®2020は、褥瘡の重症度や治癒過程を数量化して評価するDESIGN-R®が2020年に改定されたものです。
DESIGN-R®は、以下の7項目に点数をつけて評価します。
- Depth(深さ)
- Exudate(滲出液)
- Size(大きさ)
- Inflammation / Infection(炎症 / 感染)
- granulation(肉芽組織)
- Necrotic tissue(壊死組織)
- Pocket(ポケット)
これらの評価によって、褥瘡の状態を的確にアセスメントして治癒につなげることができます。DESIGN-R®は、エビデンスに基づきより優れた評価スケールにするために改定が重ねられており、現時点では2020年版が最新となっています。
DESIGN-R®2020に新たに追加された2つのポイント
DESIGN-R®2020で追加されたのは、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と「臨界的定着疑い」の2項目です。
この2つの項目は、以前から『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』に治療について示されていましたが、評価スケールにどのように落とし込んでいくかが議論されてきました。
近年では新たなエビデンスが少しずつ分かるようになり、褥瘡の治療やケアに反映する必要性が生じてきたため、今回追加されました。ただし、分かりやすくエビデンスに基づいた判定方法がまだ確立していない状況です。
そのため、点数は加味せずに、Depth(深さ)の項目に「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」、Inflammation / Infection(炎症 / 感染)の項目に「臨界的定着疑い」が追加されています。
改定によって何が変わる?
DESIGN-R®2020の改定によって「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と「臨界的定着疑い」をきちんと評価することが可能となります。
例えば、これまでは急性の深部損傷褥瘡が生じていても評価する指標がなく、浅い褥瘡と評価してしまい症状が悪化してしまうケースがありました。
しかし、DESIGN-R®2020に「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」の評価項目が追加されたことで、その状態にいち早く気づき、適切な治療・ケアに速やかにつなげられます。
深部損傷褥瘡(DTI)疑いとは?
深部損傷褥瘡(DTI)疑いとは、「表皮剥離のない褥瘡に限定されることなく、急性期褥瘡で皮下組織より深部の組織の損傷が疑われる病態」*1 です。
DTIは深部に損傷が生じた後に皮膚表面に進むため、初期段階では表面からは軽症の褥瘡にみえてしまうという問題点がありました。しかし近年、エコー検査などで深部組織の変化を確認できるようになり、DTIの判別が可能になってきています。
DTIが疑われる所見
DTIが疑われる場合は、以下のような所見がみられます。
DTI疑いでも、他の急性期褥瘡と同じように発赤、紫斑、浮腫などの所見がみられることがあります。しかし、深部組織の状態は視診では把握しにくいため、「エコーなどの画像検査を行ってもよい」*2 とされています。
筋肉の損傷を伴う褥瘡では、筋原性酵素であるクレアチンホスホキナーゼ(CPK)などが上昇することから、DTIを疑う際に有用な検査の一つです。
DTIが疑われる場合のケア方法
DTIが疑われる場合のケアとしては、除圧と全身状態・病変の経過観察が必要です。
深部の褥瘡は、表面からは分かりにくく時間の経過とともに変化するため、毎日の全身状態・病変のアセスメントが重要となります。除圧が難しい場合は、体圧分散寝具を用いて可能な限り患部を減圧することが必要です。
臨界的定着とは?
臨界的定着とは、『「定着」と「感染」の間に位置し、両者のバランスにより、定着よりも細菌数が多くなり感染へと移行しかけた状態』*1 です。臨界的定着は、クリティカルコロナイゼーション(critical colonization)とも言われています。
つまり、臨界的定着は「肉眼的には明らかでないものの炎症が生じている」*1 状態です。感染兆候である腫脹、疼痛、発熱、膿はみられないものの、なかなか治らないのが特徴です。
その原因として、バイオフィルムを伴う細菌感染が明らかになってきました。
バイオフィルムとは、細菌が産生する物質によって覆われた細菌などの集合体です。細菌が集まって作る膜のようなものが形成され、宿主の免疫や抗菌剤、消毒剤に耐性をもつ状態になります。
そのため、バイオフィルムに特化した治療が必要です。近年、バイオフィルムを可視化できる検査ツールが開発されたこともあり、的確なアセスメントと早急な対応が期待されています。
臨界的定着が疑われる所見
臨界的定着が疑われる場合は、以下のような所見がみられます。
メンブレンシートは創部に貼った後に専用液で処理することで、バイオフィルムがどの程度形成されているかを可視化できます。
臨界的定着が疑われる場合のケア方法
臨界的定着が疑われる場合は、洗浄とデブリードマン、抗菌薬などの使用が必要です。
抗菌作用を有する外用薬としては、以下のものが推奨されています。*2
- カデキソマー・ヨウ素(カデックス®軟膏など)
- ポビドンヨード・シュガー(ユーパスタコーワ®軟膏など)
- ヨウ素軟膏(ヨードコート®軟膏など)
- スルファジアジン銀など(ゲーベン®クリーム)
また、ドレッシング剤としては、以下のものが推奨されています。*2
- 銀含有ハイドロファイバー(アクアセル®Agなど)
- アルギン酸塩Ag(アルジサイト®Agなど)
まとめ
DESIGN-R®2020で新たに加わった「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と「臨界的定着疑い」。病態をしっかりと理解して的確にアセスメントすることで、患者さんの褥瘡にいち早く気づき、適切な治療・ケアにつなげられます。評価スケールや治療法などは日々進歩していますので、最新の知識をアップデートして看護ケアにぜひ活かしましょう。
*1 出典:日本褥瘡学会『改定DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント』
*2 出典:日本褥瘡学会『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』